わさびについて感じたことや体験など、わさび雑感を綴っています。
- 美味しい食べ方
- 投稿日 2022-12-22
わさびは蕎麦に溶くか、蕎麦につけるか
前回の「蕎麦とわさび」で、江戸時代中期にはわさびが薬味として使われていたと書きました。
では、わさびはどのようにして食されていたのでしょうか。
過去にさかのぼって紐解いていきたいと思います。
江戸時代
江戸時代は、料理文化が華やかに花開いた時代です。料理に関する多くの指南書や案内本も数多く出版されました。
江戸時代中期にかかれた『蕎麦全書』には、「別に蘿蔔汁・華鰹・山葵・陳皮・番椒・紫苔・焼味噌・梅干等の物を用ひて、蕎麦切及び汁に和して是を喰ふ。蘿蔔汁辛辣なるを以て勝れりとす。(大根のしぼり汁、花かつお、わさび、蜜柑の皮の粉末、唐辛子、海苔、焼き味噌、梅干しなどを用意して、蕎麦や汁に混ぜて食べる。大根おろしのしぼり汁はピリピリと辛いのがよろしい。)」と書かれています。
江戸時代中期には、わさびは辛い大根がないときの代わりとして用いられていました。そのため、当時はわさびを汁に入れていたと考えられます。
明治時代
明治時代にはわさびはどのように食されていたのでしょうか。
夏目漱石の『吾輩は猫である』のなかで、迷亭流のそば談義がはじまります。
迷亭は「打ち立てはありがたいな。蕎麦の延びたのと、人間の間が抜けたのは由来たのもしくないもんだよ」と薬味をツユの中へ入れて無茶苦茶に掻き廻わします。
苦沙弥は「君そんなに山葵を入れると辛らいぜ」と心配そうに注意します。
迷亭は「蕎麦はツユと山葵で食うもんだあね。」と応えます。
さらには、「初心の者に限って、無暗にツユをつけて、そうして口の内でくちゃくちゃやっていますね。あれじゃ蕎麦の味はないですよ。噛んじゃいけない。噛んじゃ蕎麦の味がなくなる。つるつると咽喉を滑り込むところが値打ちだよ。」と言っています。
これが江戸っ子の蕎麦の食べ方だったのでしょう。
蕎麦にわさびをのせるようになったのは
では、いつからわさびを蕎麦に直接、つけるようになったのでしょうか。
江戸ソバリエ認定委員で、蕎麦に関するエッセイを多く書かれているほしひかる氏によると、食通で有名な俳優さんが推奨し普及したようです。
わさびを少し取り蕎麦にのせて、汁にくぐらせて手繰ると、わさびが口の中で蕎麦と絡まりやんわりと辛味と甘さを醸し出します。
薬味のわさびが生わさびだったら、一度は試していただきたい食べ方です。
粋な食べ方を目指すならば、はじめに蕎麦だけで蕎麦の味を楽しむとよいようです。盛りの頂上あたりから1、2本摘み、何もつけずに蕎麦の香り、野趣性を味わいながら、喉ごしを楽しみます。
その後に汁やわさびで蕎麦を味わいましょう。