わさびの特性・効能

わさびは古くは薬草として用いられていました。

わさびの効能や誰かに話したくなるわさびの豆知識を紹介します。

わさびの特性

日本のわさび(ワサビ)

  • ワサビの特性と効能
  • 学名:Eutrema japonicum (Miq.) Kiudz.

わさびは数少ない日本固有種です。種子や苗はすべて日本に由来し、栽培をはじめたのも日本です。冷たく一定の水温と水量、透水性の高い土壌、柔らかな日差しなどの環境条件を満たさなければ育たない、栽培適地が限られる植物です。地の恵みに、人々の知恵と丁寧な手仕事が加わって栽培されています。

植物としてのワサビは、通常カタカタで表記し、食べ物や食品としてのわさびはひらがなで表記しますが、当サイトではいずれも「わさび」と表記しています。

西洋わさびと区別するために、「本わさび」と呼ぶこともあります。

  • わさびの花
  • わさびの花

わさびはアブラナ科の植物です。春に四弁の白い小花を咲かせます。

アブラナ科の野菜には、大根やキャベツ、ブロッコリーなどがあります。アブラナ科の野菜には、特徴的な香りや辛み、苦みがあります。この辛味や苦みは植物が生み出す成分であるファイトケミカル(phytochemical)の一種で、イソチオシアネートと呼ばれています。イソチオシアネートには100以上もの種類があり、健康や美容に幅広い効果があるといわれています。

西洋わさび(わさびだいこん、ホースラディッシュ)

  • 学名:Armoracia rusticana

西洋わさびは、東ヨーロッパが原産とされます。西洋料理では「ホースラディッシュ」や「レフォール」と呼び、ローストビーフには欠かせない薬味として知られています。また、標準和名では「西洋わさび」となっていますが、流通の際には「山わさび」という名称も多く見られます。その他にも「わさびだいこん」とも呼ばれ、政府の統計データにも「わさびだいこん」で記載されています。

西洋わさびは繁殖力が旺盛で、日本のわさびと比べると栽培が容易です。根茎は長いもので30cmにもなります。日本では主に北海道で栽培されています。海外では中国が主産地です。

また、日本のわさびには、爽やかな甘い香りがありますが、西洋わさびは蕪のような香りがするのが特徴です。

加工わさび

手軽に使え、長期保存ができるように加工したものが加工わさびです。

2017年には18,000トンを超える加工わさびが生産されており、日本人の食卓に欠かせない香辛料になっています。

加工わさびは、粉末状の「粉わさび」、ペースト状の「ねりわさび」、「おろしわさび」などに分けられます。

粉わさびは西洋わさびを乾燥し、粉末化したものを主原料としています。

ねりわさびは乾燥西洋わさびや乾燥本わさびを粉末化したものを主原料として、油脂や砂糖、食塩などの副原料に水を加えて練り調整加工したものです。チューブに入ったねりわさびとして、家庭でもおなじみです。常温で販売されています。

おろしわさびは生の西洋わさびや本わさびを主原料として、粒の細かいペースト状にし、冷凍冷蔵で流通させるものです。

日本加工わさび協会では、「本わさび使用」と「本わさび入り」の表示について自主基準を定めています。「本わさび使用」は、本わさびの使用量が50%以上の商品です。「本わさび入り」は、本わさびの使用量が50%未満の商品です。いずれかの表示がないものには本わさびは使用されていません。

日本の産地名や国産の表示があれば、国産の本わさびを使用しています。

わさびの各部位の呼び方

根茎:
すりおろす部分です。「いも」とも呼ばれます。根ではなく地下茎で、葉柄がはがれながら上に成長します。大きさは直径2cmから4cm程度です。
葉柄:
一般には茎と呼ばれます。鮮やかな緑色で、シャキシャキとした食感があります。その特徴を活かしてわさび漬けなどの加工わさびの原料として使用されます。
葉:
ハート形で形が葵の葉に似ていることから山葵の名が付いたといわれます。
花:
1~5月に開花し、白い花を咲かせます。三杯酢漬やおひたしに使います。

わさびの辛味成分

わさびの辛味成分

わさびの辛味成分は、わさびの細胞内にブドウ糖とからし油が結合した配糖体であるシニグリンという形で入っています。

シニグリン自体には辛味はありませんが、すりおろすことにより組織の中に存在するミロシナーゼという酵素が働いて、加水分解という化学反応をおこしてアリルからし油が生成されます。このアリルからし油は揮発性のため、ツーンと鼻に抜け、味覚・嗅覚細胞を刺激します。

辛い時間

わさびの辛味成分は加水分解反応という酵素反応により辛味成分の本体が得られます。そのため、酵素反応が完了し、揮発性である辛味成分がとんでしまうまでの間の時間(3~5分間)が最も辛い時間帯となります。

すりおろしたわさびをおちょこや湯呑茶碗に入れ、伏せておくとよいといわれるのは、揮発を防ぎながら辛味を引き出す知恵です。

品種

わさびの品種は、2021年 5月時点で 21品種が登録され、他に2品種が登録出願されています。

わさびは、あえて種苗登録をせず、育種家の間で交換し合いながら、それらを用いて新たな品種育成が行われるケースも少なくありません。

そのため、登録はされていないものの、栽培家の間での認知度が高い品種もあります。

わさびの品種で広く知られているのは「真妻」です。

真妻わさび発祥は、和歌山県日高郡真妻村(現日高郡印南町川又)と考えられています。印南町川又の山葵は、明治21年(1888年)奈良県十津川から移入したものであるという説と、明治21年以前から真妻村で山葵栽培が始まっていたという説があります。

真妻は苗を植え付けてから収穫までに1年半~2年ほどかかります。辛み、甘さ、香り、粘り、色合いのバランスがよく市場関係からの評価が高いわさびです。

真妻以外の品種についても、今後、紹介していきます。

わさびと文豪

静岡県山葵組合連合会は、狩野川台風からの伊豆わさびの復旧・復興をアピールするため、昭和36年(1961年)に『静岡わさび』という冊子を作りました。

『静岡わさび』の巻頭を飾ったのが、井上靖の「わさび美し」です。

「わさび美し」


私の郷里は伊豆半島中部の山村である。

天城山の稜線の雲が美しく見えるところで、わさびを産する村だ。

私は郷里のことを訊ねられると、大抵このように答えることにしている。

わさびの出る村というのは全国で極めて少く、その大部分が静岡県である。

だから、そうした意味で、わさびを産する村だと答えるのではない。

あの何とも形容できない独特の瑞々しい青さを持った葉の茂みの下を、絶えずきれいな冷たい水が走っているわさび沢のある村を、眼に浮かべて貰いたいからである。

それからまたあの独特の香気と味を発する植物を産する村の風景や人情が、そのわさびの味のようにぴりっとしたものを持たぬ筈はないからである。

私は自分の村がわさびを産することを誇りに思っている。

と同様に、自分の県がわさびを産することを誇りに思っている。

金や銀を産してくれるより、どんなにわさびを産してくれることの方が有難いだろう。

わさびのいいところは、説明の要らぬところだ、わさびはわさびである。

あの独特の風味について、人間がかれこれ言う必要はない。

かれこれ言えば言う程、わさびの生命は言葉の間からこぼれ落ちてしまうに違いない。

わさび美し。これだけで充分だ。

わさび美し。わさびを産するわが村美し、わが県美し。

出典:井上靖文学館(http://inoue-yasushi-museum.jp/kotoba/1502.html)

わさびの生産量

国産わさびの生産量は「根茎」、「葉柄」ともに減少傾向にあります。根茎とは、すりおろして使う部分のことで、芋とも呼びます。葉柄とは茎のことで、わさび漬けなどの加工わさびの原材料となります。

わさびの根茎の生産量は、2007年までは、年間1,000トンを超えていましたが、2008年以降は年間1,000トンを割り込み、2019年には551トンとなっています。

わさびは日本原産ですが、海外でも栽培され、中国やインドネシアなどから生のわさびや凍結されたわさびが輸入されています。2019年には国産本わさびの生産量を上回る1,376トンが輸入されています。

効能

古くから認められている効能

  • わさびの効能
  • 『本朝食鑑』国会図書館デジタルコレクション

わさびの最も古い記録は、飛鳥時代にさかのぼります。当時、わさびは薬草という位置づけであったと考えられています。

江戸時代に刊行された『本朝食鑑』には「魚毒、蕎麦の毒を解す」と書かれています。

わさびには解毒作用だけでなく、抗酸化作用、血流改善作用など多くの機能性があります。

本わさびの根茎にのみに含まれる「6-メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネート(6-MSITC)」には、「抗酸化作用」「解毒作用」「発がん抑制作用」「抗炎症作用」「育毛作用」「認知機能改善作用」があることが分かっています。(※1)

(※1)金印わさび機能性研究所(http://www.wasabi-labo.jp/