わさびについて感じたことや体験など、わさび雑感を綴っています。
- 地の恵み
- 投稿日 2022-04-08
わさびの値段は高いのか?
このところ、原材料の高騰を受け、食品や日用品の値上げに関するニュースが続いています。
一般的に、生わさびは高額品のイメージがあるといわれています。
アンケート調査を行うと、生わさびを購入する障壁として「値段が高い」という回答が一定数あります。
わさびの値段について考えてみました。
小説の中のわさび
昭和27年に発行された井伏鱒二の『川釣り』に、ワサビをテーマにした短編が収められています。
その短編「ワサビ盗人」の小説の舞台は天城山麓、上大見村の地蔵堂です。
井伏鱒二は清涼感の溢ふれる文章で、このようにわさびを表現しています。
「天城山麓、上大見村内に産出するワサビは、ワサビやワサビ漬を扱う玄人の間に有名です。
風味がよくって、唇や鼻孔に來る刺戟が強烈なる點、商品として甚だ重賓なものとされてゐます。
なかんづく、上大見村の地藏堂という地域内に産するワサビに至っては、もっぱら貴重品のごとくに珍重されています。
このワサビは、味わってみて口腔内に清新の氣が生じたような後味を殘させます。
無論、おろしで摺り出すときの緑の色も鮮やかです。
ちょんぼり、小皿の醤油に落としたとき、ぱっと擴がって醤油に重濃味を醸させて、箸を持つ人の食慾をそそります。」
昭和20年代のわさびの値段
わさびは当時、かなり高価なものだったようです。
短編の中で、泥棒が「ちかごろ、ワサビの値が高いから悪いんだ」と言っています。
では、どのくらいの値段だったのでしょうか。
「ここの澤のワサビは1本につき時價五百圓もします。」
と書かれています。
当時の消費者物価指数を令和2年と比較すると6.7倍です。
単純計算すると、今の値段で1本3,350円相当です。
料亭や寿司店などの高級飲食店が主な購入者だったと考えられます。
市場でのわさびの値段
では、今のわさびの値段はどのくらいでしょうか。
産地や品種、生産者、時期などによっても価格は異なりますが、豊洲市場の老舗仲卸さんが扱う最高級のわさびは、鮪よりも高いといいます。
1kgで2万数千円する場合もあるようです。
市場で1番の高値がでるのは、2㎏18本といわれています。
1kgに9本入り25,000円だと仮定すると、1本あたり約2,800円の計算になります。
昭和初期の価格が3,350円相当だったとすると、昭和初期のわさびがいかに高額だったのかお分かりいただけると思います。
小売店での値段
私たち消費者が購入する小売店でのわさびの値段はどの位でしょうか。
都内で生わさびを販売しているふたつのスーパーマーケットの値段を確認しました。
いずれも時期に関わらず同じ値段でわさびを販売しています。
一方は1,280円(税別)で、もう一方は980円(税別)でした。
郊外のスーパーでは580円前後で販売しているところもあるようです。
おそらく利益は出ていません。
わさびの値段を昭和初期と現在で比較しましたが、過去と比較して「わさびは高くない」というつもりはありません。
自由な市場では、財の価格は需要と供給で決まります。
物の値段は買いたい気持ちが強ければ強いほど、そして気持ちを満たしてくれるものであればあるほど、値段が高いとは感じにくいものです。
逆に、気持ちを満たしてくれないものは、値段が高いと感じるものです。
多くの人に本当のわさびの魅力を知ってもらうことが、わさびの将来にとって重要だと感じています。